一般住民の皆様へ~かからないために、かかった時のために~

2021年8月6日  一般社団法人 日本感染症学会 一般社団法人 日本環境感染学会

7月下旬以降、新型コロナウイルス感染症(以下COVID-19)の感染者数が急激に増加してきました。皆様がCOVID-19にかからないためにどうするのがよいのか、かかった場合にどうすればよいのかをまとめてみました。最初に私たちからのメッセージをまとめ、その後に説明を加えました。

― 解説 ―

COVID-19に関して知っておきたいこと

デルタ株に関して~デルタ株の感染力はこれまでの株よりはるかに強いです~

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は鼻・喉など呼吸器系の細胞の表面にある受容体から体内に侵入して感染します。感染後は細胞の中で増殖し、隣接する細胞に感染を広げていきます。

SARS-CoV-2の呼吸器系細胞への結合は、ウイルス表面のスパイク(S)蛋白の一部を介して起こります。S領域のアミノ酸には変異が生じやすく、それにより感染・増殖しやすいウイルスが生まれます。変異した感染力・増殖力の強いウイルスがそれまで流行していたウイルスに置き換わっていきます。こうして今世界中に広がりつつある変異株の1つががデルタ株です。

ウイルスの感染力を表す指標の一つに基本再生産数(R0)があります。全員が免疫を持っていない集団で、一人の人から平均何人の人に二次感染が起こるかを示すものです。SARS-CoV-2のR0は当初2~3と計算されていました。デルタ株のR0は7~8と最近米国CDCから報告がありました。水痘-帯状疱疹ウイルスとほぼ同じ感染力です。水痘-帯状疱疹ウイルスは同じ部屋に居るだけでも感染する強い感染力を持っています。デルタ株も同様と考えられます。

現在の状況からわかること~感染者が若年者に広がり、ワクチン接種の進んだ高齢者は減少~

各都道府県における感染者数、感染者の年齢分布、重症者数が公表されています。ここではデルタ株の感染が最も広がっている東京都の資料(7月29日モニタリング会議)を例にして現在の状況を考えてみます。

第三波(2021年1月)の際は高齢者が施設内・家庭内で感染して重症化する例が数多く報告されました。しかし7月29日時点で65歳以上の感染者は全体の2.9%のみです。重症者の数も増えてきていません。高齢者に対するワクチン接種が感染・感染後の重症化を共に抑えているものと考えられます。

新たな感染者として最も多いのは20歳代の方です。19歳未満の方がそれに続きます。SARS-CoV-2の感染力が強くなったことで、感染者が同居人に一人でもいると、家族内での感染の広がりを防ぐこと難しくなってきています。これまで感染の少なかった10歳代の方や小児にも感染が広がってきています。20代から50代での職場や会食での感染を防ぎ、家族内感染を抑制していくことが重要です。重症者は40~50歳代が60%を占めますが、入院者の20%は20歳代であり、第三波時の3~4倍に増えてきています。感染者のみならず重症者の年齢が低くなってきています。

このまま感染が広がると~助けられる命が助けられなくなります~

このまま感染が広がると地域によっては、‟入院・療養等調整中”、すなわち入院が必要にもかかわらずベッドがないために入院できない可能性があります。酸素吸入を含めた必要な治療が受けられない方が増加すると、第三波の時に経験したように、‟入院できれば助かったはずの人が助からない”ことが次々と起きる可能性があることはおわかり頂けるかと思います。

COVID-19の患者さんの入院は重症者が優先です。前述の状況を考えると、今後全国でも重症者用病床が逼迫する可能性があります。

重症者の病床には集中治療室が充てられますので、他の疾病などで集中治療室が必要な方の受け入れが少なくなります。また、COVID-19の患者さんの集中治療には通常の2~3倍の医療スタッフが必要です。そのしわ寄せは一般の診療に及びます。

以上からこのまま感染が広がると、‟COVID-19はもとよりそれ以外の重症者を助けることができない”状況に陥ることが危惧されます。

感染後の後遺症~若い人でも数か月間続くことがあります~

年代により差はありますが、COVID-19の患者さんの約80%が発熱、頭痛、喉の痛み、咳などの症状を伴います。味覚・嗅覚障害、全身のつよいだるさなどもしばしば認められます。

https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/iryo/kansen/corona_portal/soudan/longcovid_leaflet.files/leafletA3.pdf

ウイルスの鼻・喉からの排出量が大きく減り、社会への復帰が許可されてからもこれらの症状がなかなか消えないことがあります。国立国際医療研究センターの調査では退院2か月後で48%、4か月後で27%の方に何らかの後遺症を認めるとされています。20歳代、30歳代の方では半数以上の方に後遺症が認められました( https://www.covid19-jma-medical-expert-meeting.jp/topic/6466 )。

主な後遺症は息切れ、疲れやすさ、集中力のなさ、味覚・嗅覚障害です。数か月しても改善されず、後遺症の治療のために通院されている方もいらっしゃいます。仕事・日常生活に大きな支障が出ているものと考えられます。

2回のワクチン接種を済ませた方も引き続き感染予防対策が必要です

2回のワクチン接種を済ませた高齢者では、感染者数や重症者数が減っていることを説明しました。しかしながら2回のワクチン接種を済ませても感染することもあります。国立感染症研究所からワクチン接種後に、COVID-19と診断された人の調査結果が報告されました( https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/corona-virus/2019-ncov/2488-idsc/iasr-news/10534-498p01.html )。多くは1回だけ接種の済んだ方ですが、2回接種後の方も含まれます。また、海外からはこうした方の診断時のウイルス量には大きな差はないことも報告されています。

このことは2回のワクチン接種後でも感染は起こり得ること(ただし先にも述べたように重症化の可能性は低いとされています)、他の人に感染を広げる可能性があることを示しています。従ってこれまでと変わらぬ感染防止対策を継続して頂くことが大切です。

かからないためにわたしたちは何をすべきなのか

不特定多数の人が集まるところでマスクを外さないでください

現在大規模クラスターの発生の報告はほとんどありません。日常生活でマスクをすることをほとんどの人が守っていること、当初報告のあった不特定多数の集まる場で大声を出すことがほぼなくなったこと、ワクチン接種が徐々に進んでいることがその理由だと思います。その一方でマスク着用が普段行われている職場などでの小規模クラスターの発生が報告されています。

新たに感染される方の半数以上は感染がどのような状況で起きたかわからないと報告されています。SARS-CoV-2への感染は鼻や喉,目などの粘膜を介して起こりますから、マスクが外れた・マスクがきちんと着けられていなかった際に感染が起きた可能性が最も考えられます。

不特定多数の人が集まる場所は3密(密集・密接・密閉)の場と言い換えることもできます。こうした場所に感染者が一人いると、その場にいる多くの人が感染する危険があることを知って行動する必要があります。

マスクは適切に着けてください

マスクの品質により効果が大きく異なることが報告されています。スーパーコンピューターを使った解析によれば、ウイルスの吸い込みはウレタンマスクでは18%しか低下しませんでしたが不織布マスクでは75%低下しました。しかし不織布マスクの装着が不十分だと低下は55%に留まりました。

一方ウイルスの吹き出しはウレタンマスクでは52%しか低下しませんでしたが不織布マスクでは82%低下しました。しかし不織布マスクの装着が不十分だと低下は76%に留まりました( https://www.tut.ac.jp/docs/201015kisyakaiken.pdf )。

デルタ株の感染した人が排出するウイルス量は従来株の約1,000倍と報告されており、すべての人が不織布マスクを適切に着けることが感染防止には有効と考えられます。

換気の悪い場所の利用を避けてください

不特定多数の人が集まる場所(3密の場)は空気が滞留しやすく、その空気が外に出ていかなければ感染が容易に起こる可能性のある場所です。職場など人が長時間集まる場でのクラスターが現在も報告されていますが、換気の悪いことが感染の大きな理由と考えられます。

これを防ぐためには室内の空気がたえず入れ替わるようにする必要があります。窓や扉が2箇所以上開いていれば換気は行われますが、1箇所しか開いていない場合は扇風機や換気扇で空気の流れを作る必要があります。こうした対応がなされていない場所は感染の危険性がある場所です。こうした場所の利用はできるだけ避ける必要がありますし、やむを得ない場合も短時間の利用にとどめるべきです。

感染対策が取られていない場所での飲食を避けてください

最近アクリル板の仕切りを置く飲食店が多くなりました。食事時にアクリル板を見ると時に水滴が付いています。もしこの水滴がCOVID-19に感染した人の口から出たものだとすれば水滴の中にはウイルスが含まれていることになります。アクリル板がなければ、アクリル板の向こうにいる人が感染する可能性があります。飲食の場での感染を防ぐためにはお互いの距離を十分とること、それが難しければアクリル板などで物理的に人と人との間を遮断することが必要です。アクリル板の表面に素手で触れないように注意することも大切です。

加えて大切なのは3で述べた換気です。換気の悪い店内では、口や鼻から出されるウイルスを含む細かな水滴(マイクロ飛沫・エアロゾル)がそのまま空気中をただよい、離れたところにいる人に感染する可能性があります。これを防ぐためには店内の空気がたえず入れ替わるようにする必要があります。

飲食の場での感染を防ぐためには食事中の会話を控えることが最も大切ですが、店内での飲食はできるだけ短時間にすることが望ましいですし、飲食する場合は店の換気を確認し、店内では十分な距離をとる必要があります。

また、屋外で飲食する場合であっても互いの距離を十分とること、それが難しければアクリル板などで物理的に人と人との間を遮断することが大切です。

できるだけワクチン接種を受けることをお勧めします

現在接種が進んでいるメッセンジャーRNAのワクチンを2回接種することにより、ウイルスに対する強い免疫が誘導されます。デルタ株であっても2回の接種により高い効果があることが報告されています。高齢者の方の感染、重症化が大きく減ったことがその何よりの証拠だと思います。

メッセンジャーRNAのワクチンは強い免疫を誘導します。それに伴い様々な副反応が起きることはどうしても避けることができません。

ごく簡単にご説明すると、メッセンジャーRNAのワクチン1回目の接種は局所の症状(まれに重いアレルギー反応であるアナフィラキシー)が見られます。2回目の接種は1回目と同様の副反応である接種部位の疼痛なども見られますが、発熱、頭痛、全身倦怠感などの全身の症状が多くみられます。

こうした副反応は接種翌日が最も頻度が高いですが、数日後にはうそのように軽くなるのが特徴です。いずれの副反応も薬の投与で十分コントロールが可能です。すでに高齢者の80%以上、医療従事者の90%以上が接種を受けており、そのほとんどが数日後には接種前と変わらない日常を送っています。副反応疑い報告の頻度や種類については、厚生労働省のホームページ( https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/shingi-kousei_284075.html )で紹介されていますし、学会からも情報を提供しています( https://www.kansensho.or.jp/modules/guidelines/index.php?content_id=43 )ので、詳しいことはぜひそちらをご参照ください。

副反応は認められますが、大きな効果も認められます。自分や自分の大切な方を感染、その後の後遺症から守るためにはワクチンが最も効果的です。日常生活の注意だけでは感染を防ぐことの難しいデルタ株が中心となっている今、一人でも多くの方にワクチンを接種して頂きたいと思います。

かかってしまった人に

かかったかなと思ったら、仕事・学校を休み、まず検査を受けましょう。大切な人にそのことを伝えましょう

デルタ株に感染してから症状が出るまでの期間は平均3~4日とされています。他人との接触があって3~4日後に体温上昇、喉の痛み、鼻水などの症状があった場合は、症状が軽くても、身近な医療機関に電話等で相談された上で検査を受けるようにしてください。接触した方と連絡がとれる場合はその人に連絡をしてお互いの状況を確認することも大切です。

職場や学校等は一旦休んで、同居している人や職場、学校等にはきちんと伝えましょう。鼻や口から出されるウイルスの量が多いのは症状が出始めたときです。デルタ株の場合感染力が極めて強く、同居している家族が感染する可能性は高いと考えられます。

検査が陽性だった場合は行政機関などから連絡がありますので、その指示に従ってください

検査を受けて陽性であった場合、確認した医師はただちに保健所に発生届を提出します。保健所では発生届を受理した後、感染した人の健康状態、居住状況などを確認するために電話をします。この際に電話に出ない方がいることが最近問題になってきています。保健所に自分の健康状態を把握してもらうことは、自分の命を守るためにも他の人に感染を広げないためにもとても大切なことですので、行政機関などからの電話には必ず出ていただき、その指示に従ってください。

自治体や医療機関から自分が受けることのできる支援を確認してください

入院できずに自宅で療養する場合、毎日の生活・自らの健康管理・療養に必要な手続きなどに関して様々な支援を受けることが可能です。健康管理に関しては酸素飽和度を測定するパルスオキシメーターを借りることの可能な自治体も数多くあります。利用できる制度は賢く利用して自分を守りましょう。

風通しのよい部屋に自分を隔離して周囲の人を感染から守りましょう

自宅療養に際しては入院・宿泊療養施設と同じような環境に自分を置くことが基本です。可能な限り家族とは別の部屋に自分を隔離して1時間に数回窓を空けて換気を行うことが望まれます。自宅療養に関しては行政から小冊子が出されており( https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/iryo/kansen/corona_portal/shien/zitakuryouyouhandbook.htmlなど )、家族の気を付けることをわかりやすく示した小冊子も発行されています( https://www.hosp.tohoku-mpu.ac.jp/info/information/2759/ )ので参考にしてください。

最初の症状が出てから1週間前後で症状が急に悪化することがあります

COVID-19は症状が出てから後の数日は、ウイルスを排除するために私たちの身体が様々な反応を起こします。発熱をはじめとする様々な症状が出現します。最初の数日を過ぎると80%程度の患者さんは改善する方向に向かいます。

改善するかどうかの分かれ目は症状が最初に出現してから7~10日後だとされています。この時期を過ぎても改善がないようであれば入院が必要になる可能性が高くなりますので、保健所あるいは医療機関に相談することが必要です。パルスオキシメーターを使われている場合には、酸素飽和度が低下するようであれば、症状がなくとも保健所あるいは医療機関に相談してください。

皆さんへのお願い

ワクチン接種が国民にいきわたるまでは私たちの努力で感染を抑えこむ必要があります

現時点で2回のワクチン接種を済ませているのは国民の20%強です。集団免疫を獲得するまではまだ時間がかかりますが、接種率が上がってくることで新たな感染は徐々に減ってくるはずです。まだその時期は正確には予測できませんが、接種が進むと、新たな感染者が減ってくることが期待されます。それまでは‟かからないためにわたしたちは何をすべきなのか”の項で述べたことをできるだけ守ることが大切だと思います。

正しい情報を周囲の人と共有してください

どんな病気についても言えることですが、正確な情報を手に入れることはとても大切なことです。国・地方自治体の出す情報はホームページなどですべて公開されていますが、これを確認することは専門家でも難しいと思いますので、情報をわかりやすくまとめたメディアの役割は大きいです。

マスメディアから出される情報は様々ですが、ニュースとして全国に発信される情報などは、参考になると思います。こうした正しい情報を周囲の人と共有して賢明に行動するように心がけてください。

あなたの大切な人のことを思いやってください

“友人も罹ったけれども大したことがなかったので実感がわかない”といって夜の街に繰り出していく人が若者を中心にいることが報道されています。そのうちの一部が感染してさらに周囲の人に感染を広げていることが現在の流行の大きな原因とされています。

自分が感染した場合に重症化・後遺症のリスクがあることはすでに説明した通りですが、自分の周囲にいる家族、友人に知らない間に感染を広げるのがこの感染症の一番怖いところです。その中にも感染して重症化する人が一定の割合で含まれます。

自分の行動が他人に迷惑を及ぼすことがないように、一人一人が自分にとって大切な人のことを思いやり、感染予防に繋がる行動をとることが周りにいる大切な人を感染から守り、ひいては、医療の逼迫を防ぎ、多くの人の命を救うことにつながります。

ワクチンを受けることができない人のことを理解するように努めてください

COVID-19にかかるのを予防するためには一人でも多くの国民がワクチンを接種することが必要です。しかし中には体質や基礎疾患のためにどうしても接種をためらっている人もいます。ワクチンを受けたくても受けることができない人を周囲の人が接種することで守るのが“集団免疫”本来の考え方です。どのくらいの人が接種を受ければ集団免疫が可能なのかどうかはまだ十分にはわかりませんが、接種したくても、接種できない人を周囲が守るという考え方も大切です。

COVID-19に最近かかった人の多くはすでに述べたように感染のきっかけがわかりません。会食でかかる人は今もいますが、その多くは親しい友人と少人数で会食した方です。こうしたちょっとした会食で感染してしまうのがデルタ株です。

感染すると、職場や学校を休む必要がありますし、後遺症で体調の優れない場合もあります。どうかそうしたことを理解していただきたいと思います。

令和3年8月6日

一般社団法人 日本感染症学会

一般社団法人 日本環境感染学会